画面に出ている「割安」の数字は、会社が出した予想でつくられたものですか。それとも、アナリストが出した予想ですか。
自作スクリーナー KAIRI が「スコア 93 点・全 279 銘柄中 1 位」と判定した銘柄を、会社の IR 資料で計算し直したら割高でした。原因は、この 2 つの EPS が最大 167% ずれていたこと。4 銘柄を一次資料まで戻って確かめた記録と、そこから抽出できた「4 つの型」を書きます。
スクリーニングツールを使っていると、PER や割安度が最初から計算済みで表示されます。便利ですが、そこで使われている EPS(1 株あたり利益)が誰の予想なのかを意識している人は、あまり多くないはずです。今回はそこに落とし穴がありました。
(ANA HD)
判定反転
割安を維持
前提を先に書きます。適正株価は目標 PER 15 倍 × EPS、割安と認めるための要求安全域は KAIRI の動的安全域(年率ボラティリティ × 0.7)。株価・乖離の数値はすべて 2026 年 7 月 25 日時点のものです。
きっかけ — 1 位の銘柄に「本当に?」と思った
その日、スクリーナーの 1 位は ANA ホールディングスでした。スコア 93 点、乖離 +147.5%。数字だけ見れば文句なしの買い候補です。
ただ、航空株がそこまで放置されているだろうか、という引っかかりがありました。ニュースでは燃料価格の高騰が続いていると報じられています。そこで決算短信を開いてみたところ、話がまるで違いました。会社は自ら「大幅減益になる」と発表していたのです。
ここから、上位に並んでいた 4 銘柄すべてを IR 資料まで戻って検証することにしました。
検証結果 — IR 基準で判定が維持できたのは 1 銘柄だけ
| 銘柄 | 株価 | ツールが採用した EPS (アナリスト予想) | 会社予想 EPS (IR) | ズレ | ツール上の乖離 | IR 基準の乖離 | 要求安全域 | 結論 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 積水ハウス(1928) | 3,536 | 377.5 | 336.30 ◎ | +12% | +60.1% | +42.7% | 20.0% | 割安を維持 |
| 川崎汽船(9107) | 2,806 | 349.4 | 220.79 ◎ | +58% | +86.8% | +18.0% | 23.7% | 割安圏外 |
| セガサミー(6460) | 2,520 | 247.2 | 約 159.6 △ | +55% | +47.1% | -5.0% | 23.4% | 割安でない |
| ANA HD(9202) | 2,951 | 487.0 | 約 182.5 △ | +167% | +147.5% | -7.2% | 20.0% | 割安でない |
◎=決算短信・適時開示に明記された数値を直接確認/△=IR の純利益と株数から筆者が逆算した推計値(短信記載値と端数が異なる可能性あり)
4 銘柄は、そのまま「割安表示の 4 つの型」だった
1 銘柄ずつ中身を見ていくと、ズレの理由がそれぞれ違うことがわかりました。そしてこの 4 パターンは、どのツールを使っていても遭遇する典型的な型です。順に説明します。
アナリスト予想が会社ガイダンスを大きく上回ったまま更新されていない状態。割安表示が最も派手に出ます。
ANA HD(9202)業績改善は事実でも、株価が既に反応していれば安全域には届きません。好材料と割安さは別問題です。
川崎汽船(9107)会社の慎重な見通しで計算しても割安。今回、買い候補として残ったのはこの型だけでした。
積水ハウス(1928)実績が赤字だと予想の妥当性を実績と突き合わせられません。判断材料が足りない、が正しい結論です。
セガサミー(6460)TYPE 01|ANA ホールディングス — 会社自身が減益を明言していた
2026 年 4 月 30 日発表の 2027 年 3 月期予想は、売上高 2 兆 7,700 億円(前期比 +9.1%)に対して、営業利益 1,500 億円(-31.0%)、経常利益 1,370 億円(-37.6%)、純利益 960 億円(-43.2%)。配当は 60 円です。減益の理由として「中東情勢の緊迫化で航空燃料が高騰し、運賃の値上げでは補えない」と会社が明記しています。前期(2026 年 3 月期)は過去最高益でした。
この型の見分け方はシンプルで、会社の最新ガイダンスを一度見に行くだけです。減収減益を会社が予告しているのに割安上位に来ている銘柄は、まずデータのズレを疑ってよいと思います。
TYPE 02|川崎汽船 — 上方修正は本物。ただし株価が織り込み済み
こちらは業績改善そのものが事実でした。2026 年 7 月 24 日の適時開示「2027 年 3 月期 業績予想の修正に関するお知らせ」の内容は以下のとおりです。
| 通期予想 | 前回(5/8) | 今回(7/24) | 増減 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,020,000 百万円 | 1,070,000 百万円 | +4.9% |
| 経常利益 | 100,000 百万円 | 135,000 百万円 | +35.0% |
| 純利益 | 95,000 百万円 | 135,000 百万円 | +42.1% |
| EPS | 150.29 円 | 220.79 円 | — |
修正理由は「主にドライバルク事業で市況が堅調」に加え、「持分法適用関連会社 OCEAN NETWORK EXPRESS(ONE)のコンテナ船事業で貨物需要・市況が予想を上回った」こと。前期実績は経常利益 109,100 百万円、純利益 132,986 百万円、EPS 210.42 円でした。
ただし、会社 EPS 220.79 円で計算すると PER 12.7 倍・乖離 +18.0%。要求安全域 23.7% には届きません。好材料が出たことと、いま買って報われることは別。この型は「間違った銘柄」ではなく、「タイミングが過ぎた銘柄」です。次回決算は 8 月 4 日。
TYPE 03|積水ハウス — 会社予想が保守的で、それでも割安
2027 年 1 月期 第 1 四半期(2026 年 2 月 1 日〜4 月 30 日)は、売上高 908,878 百万円(+1.7%)、営業利益 76,104 百万円(+26.2%)、経常利益 72,495 百万円(+54.9%)、純利益 58,479 百万円(+75.2%)。Q1 の EPS は 90.21 円(前年同期 51.49 円)でした。
一方で通期予想は経常利益 314,000 百万円(-4.2%)、純利益 218,000 百万円(-6.1%)、EPS 336.30 円と、減益予想のまま据え置きです。Q1 だけで進捗率 26.8%(均等ペースの 25% 超)。会社が慎重に見ている可能性があります。
財務面では配当 145.00 円(前期 144 円から増配)、発行済株式数は 663,122,166 株から 651,422,166 株へ(約 1,170 万株を消却)、自己資本比率 43.6%。会社の控えめな予想で計算しても乖離 +42.7% と、要求安全域 20.0% を上回りました。今回 4 銘柄のうち、検証を通過したのはこの 1 銘柄だけです。
TYPE 04|セガサミー — 赤字からの黒字転換は、実績で検証できない
2027 年 3 月期予想は売上高 5,100 億円(+4.6%)、営業利益 445 億円(-5.6%)、経常利益 475 億円(-12.4%)、純利益 325 億円、配当 55 円。
問題は、実績 EPS が -27.5 円(赤字)で、予想が黒字転換になっている点です。実績と予想を突き合わせるという検証方法自体が使えません。この型は「割高だから見送り」ではなく、「この物差しでは測れないから、別の材料が要る」と整理するのが正確だと思います。
なぜズレるのか — 構造的な理由
そもそもアナリスト予想 EPS と会社予想 EPS は、別々の主体が別々の目的で出している数字です。日本企業は保守的なガイダンスを出す傾向があり、アナリストがその上に乗せるのは構造的な現象と言えます。
問題は、乗せ幅が銘柄ごとにまったく違うこと。今回の 4 銘柄でも +12% から +167% まで開きがありました。「アナリスト予想は少し高めに出る」という一般論を知っているだけでは、判定の反転は防げません。銘柄ごとに確かめるしかない、というのが実感です。
加えて、多くのツールは「予想 EPS が実績から大きく外れていたら退避する」といった安全装置を持っていますが、そのしきい値は意外と緩いことがあります。私のツールでは実績比 0.4〜2.5 倍が許容範囲で、1.5〜2.4 倍のズレは素通りしていました。今回のスクリーニングでは ANA HD 1.52 倍、東北電力 1.57 倍、アサヒ 1.76 倍、ニチレイ 2.16 倍、コスモエネルギー 2.40 倍が該当しています。
明日からできる 3 ステップ
結局のところ、上位に出てきた銘柄に対して数分の手間をかけるかどうかの話です。私はこの順番で確認するようにしました。
- 実績 EPS と予想 EPS を並べるツールが表示している予想 EPS と、直近の実績 EPS を横に並べます。多くのツールは両方を持っているので、切り替えるだけで見えます。
- 比率を出す。1.5 倍を超えたら要注意予想 ÷ 実績が 1.5 倍を超えていたら、その割安表示は予想の跳ね上がりで作られている可能性があります。今回反転した銘柄はすべてここに該当しました。
- 決算短信の 1 ページ目だけ開く会社の通期予想(売上・利益・EPS・配当)は最初のページにまとまっています。会社が減益を予告していないか、それだけ確認します。数分で終わります。
まとめ — スクリーナーは「候補を絞る道具」であって「結論を出す道具」ではない
- 割安表示は「誰の予想 EPS で計算されたか」で結論が変わる
- 乖離が大きい上位銘柄こそ、実績 EPS と会社予想 EPS の 2 つを突き合わせる
- 好材料が本物でも、株価が織り込み済みなら安全域には届かない(TYPE 02)
- 赤字からの黒字転換予想は、割高・割安を論じる前に「検証できない」と整理する(TYPE 04)
- 決算短信を開く数分が、順位を完全に反転させることがある
自作ツールの良いところは、こうして「なぜ間違えたか」を数字まで遡って確かめられる点だと思っています。KAIRI の設計思想と評価モデルについては KAIRI プロジェクトのページにまとめています。
出典
- 川崎汽船「2027 年 3 月期 業績予想の修正に関するお知らせ」2026 年 7 月 24 日
- 積水ハウス「2027 年 1 月期 第 1 四半期決算短信」2026 年 6 月 4 日
- ANA ホールディングス「2026 年 3 月期決算について」2026 年 4 月 30 日
- 日本経済新聞「ANAHD の 27 年 3 月期、純利益 43%減 航空燃料の高騰で」
- Aviation Wire「ANA、27 年 3 月期純利益 43%減 960 億円予想」
- 株探「セガサミー、今期経常は 12%減益へ」
- セガサミーホールディングス「2026 年 3 月期 決算短信」2026 年 5 月 12 日
本記事の株価・乖離の数値は 2026 年 7 月 25 日時点のものです。セガサミーと ANA ホールディングスの EPS は、IR 公表の純利益と株式数から筆者が逆算した推計値であり、決算短信の記載値と端数が異なる可能性があります。本記事は個人の記録・検証であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資には元本割れのリスクがあります。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。
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