お金の基礎 02 / 現金の役割
現金は何も生まない、と言われる。生まないからこそ効く局面がある。
生活防衛資金は「増やさない資金」である。増やそうとした瞬間に役割を失う、という点が理解されにくい。
資産形成の話は、たいてい「何を買うか」から始まる。しかし順序としては、その前に確保すべきものがある。生活防衛資金である。
これは万一の事態——失業、疾病、家族の事情、突発的な転居——に備えて現金で保持しておく資金を指す。
目次
目安は生活費の 3〜6 か月分
| 状況 | 目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 会社員・家族の支援あり | 3 か月分 | 傷病手当金や失業給付が受けられる可能性が高い |
| 会社員・単身 | 6 か月分 | 生活費をすべて自分で負担する必要がある |
| 自営業・フリーランス | 12 か月分 | 傷病手当金がなく、収入変動も大きい |
| 扶養家族がいる | 6〜12 か月分 | 生活費の絶対額が大きく、削減余地が小さい |
なぜ投資に回してはいけないのか
「現金で置いておくのはもったいない」という考えは理解できる。しかし生活防衛資金を投資に回すと、構造的な問題が生じる。
手元の現金が尽きる時期と、相場が底を打つ時期は、驚くほどよく重なる。偶然ではない。
景気後退で失業が増える時期は、株価も下落している。つまり現金が最も必要になる瞬間に、資産価値は最も低くなっている。この局面で売却を強いられれば、損失が確定するだけでなく、その後の回復にも参加できない。
生活防衛資金の役割は、この「強制売却」を回避することにある。増やすための資金ではなく、投資を継続するための保険と位置づけるほうが正確だ。
公的制度も併せて把握しておく会社員であれば、病気やケガで働けない場合に傷病手当金が支給される。支給期間は支給開始日から通算して 1 年 6 か月である(2022 年 1 月から通算化)。こうした制度の存在を知っていれば、必要な現金の量も現実的に見積もれる。
置き場所は普通預金でよい
生活防衛資金の要件は「必要なときに即座に引き出せること」である。金利の高低は本質ではない。
- 普通預金——即時に引き出せる。生活防衛資金の標準形
- 定期預金——中途解約は可能だが手続きが挟まる。一部を置く程度なら可
- 個人向け国債(変動10年)——発行後 1 年経過すれば中途換金可。超過分の置き場所としては選択肢になる
生活防衛資金を「貯め終わってから」でなくてよい全額が貯まるまで投資を一切しない、という運用は現実的でない場合もある。先に最低ラインとして 3 か月分を確保し、以降は貯蓄と投資を並行させるのが実務的である。ただし優先順位は常に現金が先である。
確保の手順
- 毎月の生活費を実額で把握する家賃・光熱費・通信費・食費・保険料を合算する。ここが曖昧なままだと、目標額そのものが決まらない。
- 目標額を決め、別口座に分離する生活用の口座に混ぜると必ず使ってしまう。物理的に分けることが最も確実な対策である。
- 積立と並行して貯める最低ラインを確保したら、以降は生活防衛資金の積み増しと投資を同時に進めてよい。
よくある質問
- 生活防衛資金はいくら必要ですか?
- 一般的な目安は生活費の 3〜6 か月分です。会社員で家族の支援がある場合は 3 か月分、単身なら 6 か月分、自営業やフリーランスは傷病手当金がないため 12 か月分程度が目安とされます。
- 生活防衛資金を投資に回してもいいですか?
- 推奨されません。現金が必要になる局面は相場の下落局面と重なりやすく、最も価値が下がったときに売却を強いられる可能性が高いためです。
- 生活防衛資金はどこに置くべきですか?
- 即座に引き出せることが要件なので、普通預金が基本です。金利より流動性を優先します。生活用口座とは分離しておくと使い込みを防げます。
- 生活防衛資金が貯まるまで投資は始められませんか?
- 最低ラインとして 3 か月分を確保したうえで、以降は貯蓄と投資を並行させる方法が現実的です。ただし優先順位は常に現金の確保が先になります。
本記事は公開情報にもとづく個人の解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。制度・手数料・ポイント還元の条件は改定されることがあります。実際のご判断は必ず金融庁・各運用会社・各証券会社の最新の公式情報をご確認のうえ、ご自身の責任でお願いいたします。
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