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下げの引き金は 1 つではなかった。特許訴訟で約 370 億円、そこにセクター全体の急落が重なっている。
2 営業日で状況が変わったので続きを書く。そして今回はじめて、私のスクリーナーが半導体を「割安」と言い始めた。それでも買わない理由まで書く。
キオクシアは 7 月 29 日終値 38,380 円。6 月 23 日の 92,290 円から 約 58% 下落した。下げには 2 つの引き金がある。7 月 16 日の特許訴訟で約 370 億円の支払いを命じる陪審評決(翌 17 日ストップ安)と、7 月 28 日の半導体セクター全体の急落(同日もストップ安)である。セクターの 5 日騰落率は中央値 −20.7% まで悪化し、私のスクリーナーはついに半導体銘柄を「割安」と判定し始めた。ただし私はまだ買わない。理由は後述する。
7 月 28 日にこの銘柄について書いた。あれから 2 営業日で状況が変わったので、続きを書く。
前回の記事に足りなかったこと
先に訂正しておく。前回はこの下落を「セクター全体の巻き戻し」「AI 投資への疑い」「NAND 専業という構造」の 3 層で整理した。
しかしもっと直接的な個別材料があった。特許訴訟である。調べが足りていなかった。
7 月 16 日 — 約 370 億円の支払いを命じる評決
米国時間 2026 年 7 月 16 日、テキサス州西部地区連邦地方裁判所の陪審が、キオクシアおよび子会社 Kioxia America に対し、約 2 億 2,900 万ドル(約 370 億円)の支払いを命じる評決を出した。
原告は米衛星通信会社 Viasat。争点となったのはフラッシュメモリの消費電力を抑え、信頼性や寿命を高める誤り訂正技術に関する特許である。
キオクシア側は侵害を否定し、特許自体が無効だと反論していた。評決後も「Viasat 社の主張及び陪審の判断は到底容認できるものではない」として、評決後の申し立てに加え、必要なら控訴するなど、取り得るあらゆる法的手段を講じる方針を示している。
この評決を受けて、7 月 17 日の東京市場でキオクシアはストップ安となり、午前 9 時半ごろに前日比 1 万円安の 52,110 円と値幅制限の下限に達した。
株価の経緯を整理する

| 日付 | 株価 | 出来事 |
|---|---|---|
| 6 月 23 日 | 92,290 円(終値) | 前日比 −15.1%。マイクロン決算前のリスクオフ |
| 7 月 2 日 | 一時 75,000 円 | 約 −15%。Meta の AI 計算資源外部提供の報道 |
| 7 月 17 日 | 52,110 円 | ストップ安。前日比 1 万円安。特許訴訟の評決を受けて |
| 7 月 28 日 | 44,550 円(終値) | ストップ安。前日比 −18.33%。米半導体株安が波及 |
| 7 月 29 日 | 38,380 円(終値) | 続落 |
| 7 月 31 日 | — | 第 1 四半期決算の発表予定 |
一方で、業績の数字は伸びている
ここが前回も書いた奇妙な点である。2026 年 3 月期の通期実績は、売上 2 兆 3,376 億円(前期比 +37.0%)、営業利益 8,704 億円(同 +92.7%)。AI データセンター向けの需要が追い風になっている。
業績は伸びている。株価は 6 割近く下げている。この二つは同時に成り立つ。
株価は業績の絶対値ではなく期待との差で動く。加えて今回は訴訟という業績外の要因が乗った。
セクター全体はこの 2 日でさらに悪化した

自作スクリーナーで国内・海外の半導体銘柄 23 社を集計した。7 月 30 日 9 時 12 分(前場)時点の数字である。
| 銘柄 | 株価 | 5 日騰落率 | RSI(14) | 52 週位置 |
|---|---|---|---|---|
| SCREEN HD | 11,730 円 | −28.9% | 30 | 44.3% |
| イビデン | 13,470 円 | −26.2% | 33 | 42.6% |
| ディスコ | 51,320 円 | −25.2% | 30 | 25.8% |
| 東京エレクトロン | 50,000 円 | −24.2% | 28 | 49.1% |
| ルネサスエレクトロニクス | 3,170 円 | −24.1% | 27 | 41.7% |
| マイクロン(米) | 739 ドル | −23.0% | 36 | 55.2% |
| AMD(米) | 429.56 ドル | −22.2% | 36 | 64.4% |
| SUMCO | 2,948.5 円 | −22.1% | 33 | 37.9% |
| 23 銘柄の中央値 | — | −20.7% | 33 | — |
注目すべきは 3 点ある。
- 米国勢も同じだけ下げている——マイクロン −23.0%、AMD −22.2%。日本固有の問題ではない
- RSI が売られすぎ圏に入った——東京エレクトロン 28、ルネサス 27。2 日前は 30 以下が 0 銘柄だった
- ディスコの 52 週位置は 25.8%——年間の値幅の下から 4 分の 1 の水準にある
そしてスクリーナーが「割安」と言い始めた
ここが今回いちばん重要な変化である。下げが進んだ結果、半導体銘柄が私のスクリーナーで割安判定に入ってきた。
| 銘柄 | 乖離 | スコア | 信頼度 |
|---|---|---|---|
| ルネサスエレクトロニクス | +138.9% | 75 | 中 |
| SCREEN HD | +108.8% | 82 | 高 |
| クアルコム(米) | +83.6% | 79 | 高 |
| TSMC(ADR) | +49.7% | 70 | 高 |
SCREEN HD は乖離 +108.8%、スコア 82、信頼度「高」。数字だけ見れば有望に見える。
それでも私は買わない
理由は 3 つある。すべて過去に自分で書いたことの適用である。
① 乖離が大きいほど確からしい、とは限らない
乖離 +138.9% や +108.8% という数字は、予想 EPS が実績から大きく跳ねているときにも発生する。
半導体は市況産業である。好況期の予想 EPS を前提に PER 15 倍を当てれば、適正株価は簡単に跳ね上がる。いま起きているのは、その好況の前提が疑われている局面だ。
この論点は「その「割安株」、誰の EPS で計算していますか」で自分が検証した内容そのままである。
② 決算がこれから出る
7 月 29 日にアドバンテスト、30 日に東京エレクトロン、31 日にキオクシアの決算が並ぶ。
決算前に入るのは、決算内容に賭けることになる。これは私の手法ではない。
③ RSI 27〜30 は「底」ではない
RSI が売られすぎ圏に入ったことは、反発しやすさを示す指標ではある。しかし下落局面ではこの水準に張り付いたまま、さらに下げ続けることがある。
52 週位置を見ると、ディスコが 25.8% である一方、AMD は 64.4%。まだ年間の高値圏にいる銘柄も混じっている。セクター全体が底を打った形にはなっていない。
相場全体の材料も動いている
この下落は半導体だけの話でもない。同じ週に金融政策の材料が並んでいる。
- FOMC は 7 月 29 日に政策金利の据え置きを決定——5 会合連続。事前には利上げ予想が 4 割程度あった
- これを受けて円は反発——1 ドル 163 円台へ。ドル売りが優勢になった
- 日銀の金融政策決定会合は 7 月 30〜31 日——据え置き見込み。焦点は今後の利上げへの姿勢
円高方向に振れれば、輸出企業の採算見通しには逆風になる。半導体関連は為替の影響も受けるため、この材料も無関係ではない。
金融政策の読み方は「FOMCと日銀会合をどう読むか」に整理した。
明日の決算で何を見るか
- 通期の見通しをどう置くか4〜6 月期の実績は良い数字が出る可能性が高い。問題はその先である。会社が通期をどう見ているかが焦点になる。
- 特許訴訟への言及約 370 億円の評決について、業績への織り込み方や今後の対応がどう説明されるか。引当の扱いも含めて確認する。
- NAND 市況と韓国勢の増産をどう見ているか供給増の見通しに対する会社側の認識。市場の懸念と会社の前提がずれていないかを見る。
- 発表後の株価の反応好決算で上がったのか、好決算でも売られたのか。後者なら「既に織り込み済み」という市場の回答になる。
この局面から学べること
- 下落には複数の引き金があり、1 つに帰着させると読み違える
- 訴訟のような業績外の要因は、スクリーナーの数字には表れない
- 陪審評決は確定判決ではない。見出しの金額をそのまま損失と読まない
- 暴落が進むとスクリーナーは「割安」を出し始める。数字が出ることと妥当であることは別
- 市況産業では、好況期の予想 EPS を前提にした適正株価は当てにしにくい
- RSI(需給)と乖離(価値)は別の指標。混同しない
前回も書いたが、もう一度書く。半値になったこと自体は割安の根拠にならない。下げた理由が説明できてしまう場合、それは歪みではなく評価である。
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よくある質問
- キオクシアの株価はいくらまで下がりましたか?
- 7月29日終値は38,380円です。6月23日の終値92,290円から約58%の下落となります。7月17日と7月28日に2度ストップ安を記録しています。
- キオクシアの特許訴訟とは何ですか?
- 米国時間2026年7月16日、テキサス州西部地区連邦地裁の陪審が、キオクシアおよび子会社Kioxia Americaに対し、Viasat社の特許侵害で約2億2,900万ドル(約370億円)の支払いを命じる評決を出しました。キオクシア側は容認できないとして、控訴を含む法的手段を検討しています。なお陪審評決であり確定判決ではありません。
- 半導体株はどれくらい下がっていますか?
- 自作スクリーナーで23銘柄を集計すると、7月30日時点の5日騰落率は中央値−20.7%でした。SCREEN HDが−28.9%、東京エレクトロンが−24.2%。米国勢もマイクロン−23.0%、AMD−22.2%と同程度下げています。
- スクリーナーが割安と出た半導体株は買いですか?
- 数字が出ることと妥当であることは別です。半導体は市況産業で、好況期の予想EPSを前提にした適正株価は当てにしにくくなります。またRSIが売られすぎ圏にあることは需給の指標で、価値の安さを示すものではありません。
出典
- ITmedia「キオクシア、約370億円の支払い命令に『到底容認できない』 控訴含む法的手段へ 米特許訴訟で」(2026年7月17日)
- キオクシアホールディングスの株価に関する各種報道(7月29日終値 38,380円)
- 日本経済新聞「NY円相場、反発 1ドル=163円35〜45銭 FRBの金利据え置き受けドル売り」ほか
- 株探ニュース「今週の決算発表予定 キオクシア、アドテスト、東エレクなど(7月27日〜31日)」
- 自作スクリーナー KAIRI による半導体セクターの集計(2026年7月30日 9時12分時点、23銘柄)
本記事は公開情報にもとづく個人の解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。制度・手数料・ポイント還元の条件は改定されることがあります。実際のご判断は必ず金融庁・各運用会社・各証券会社の最新の公式情報をご確認のうえ、ご自身の責任でお願いいたします。

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