キオクシア決算 — 営業利益は前年同期の28倍、それでもPER6倍。この数字をどう読むか(2026年7月31日)

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Market Note / 2026.07.31

営業利益は前年同期の 28.3 倍。訴訟引当 366 億円を引いた後の数字である。

決算は大引けと同時に出た。だから市場の答えはまだ出ていない。数字は完璧だった。それでも私が買わない理由を、PER と PBR の食い違いから説明する。

結論

キオクシアの 2027 年 3 月期第 1 四半期は、売上収益 1 兆 7,671 億円(前年同期の 5.15 倍)、営業利益 1 兆 2,700 億円(同 28.3 倍)。同時に上限 8,000 億円の自己株式取得枠1 株を 3 株にする株式分割を決議した。数字は文句のつけようがない。ただし会社は通期の見通しを出していない。そして株価 46,500 円は PER 6.0 倍だが PBR は 10.6 倍である。この組み合わせは、市況のピーク付近でよく現れる形だ。低い PER は、それだけでは買う理由にならない。

対話形式でも解説しています

この銘柄を投資初心者向けに一から解説した回があります。キオクシアって結局どんな会社? — 77倍→3分の1→ストップ高を先生と整理する

この記事の位置づけ2026 年 7 月 31 日 15 時 30 分開示の決算短信および同時開示資料を一次情報として読み解いた内容です。売買を推奨するものではありません。数値は開示資料の記載に基づきますが、投資判断は必ずご自身で原文を確認したうえで行ってください。

7 月 28 日と 30 日にこの銘柄について書いた。「決算を見てから判断する」と書いた以上、決算が出た日に書く。

目次

まず、株価が動いた理由を間違えないこと

7 月 31 日、キオクシアは値幅制限の上限である 46,500 円(前日終値 39,500 円比 +17.72%)まで買われた。午前中からストップ高買い気配のまま推移している。

ここで注意が必要である。この上昇は決算とは関係がない。

材料は前日の米半導体株高だった。SOX 指数が約 8.2% 上昇し、サンディスクが 26% 高、マイクロンや SK ハイニックスも 18% 高。その流れを受けたリバウンドである。

決算は 15 時 30 分、大引けと同時に出た。つまり市場はまだ決算に対して答えを出していない。

決算に対する市場の反応が出るのは 8 月 3 日(月)である。この記事はその前に書いている。

決算の数字

Fig. 四半期業績の推移Fig. 四半期業績の推移|売上収益は前四半期比 +76.2%、前年同期比 5.15 倍。第 2 四半期の会社見通しはさらに増収増益を置いている。
売上収益は前四半期比 +76.2%、前年同期比 5.15 倍。第 2 四半期の会社見通しはさらに増収増益を置いている。
項目前年同期
(2025年4-6月)
当第1四半期
(2026年4-6月)
倍率
売上収益3,428 億円1 兆 7,671 億円5.15 倍
 SSD & ストレージ2,174 億円1 兆 1,747 億円5.40 倍
 スマートデバイス790 億円5,257 億円6.65 倍
営業利益449 億円1 兆 2,700 億円28.3 倍
Non-GAAP 営業利益452 億円1 兆 3,262 億円29.3 倍
親会社所有者帰属四半期利益183 億円8,422 億円46.1 倍
1 株当たり四半期利益33.90 円1,539.91 円45.4 倍
米ドル平均為替レート145 円160 円
2027 年 3 月期第 1 四半期決算短信より。倍率は筆者が算出。

会社の説明はこうである。「生成 AI 用途を中心としたデータセンター向け顧客の需要が旺盛に推移したことによる平均販売単価の大幅な上昇」

つまり数量ではなく単価が主因である。ここは覚えておいてほしい。後で効いてくる。

前四半期(2026 年 1-3 月)比でも売上は 1 兆 29 億円から 1 兆 7,671 億円へ +76.2%。3 か月でこれだけ動く事業だということでもある。

前回「決算で見る」と書いた 4 点の答え合わせ

7 月 30 日の記事で、決算で確認すべき点を 4 つ挙げた。順に答え合わせをする。

① 通期の見通しをどう置くか → 出さなかった

会社は 2027 年 3 月期の通期業績予想を開示していない。開示したのは第 2 四半期(7-9 月)と中間期累計までである。

短信にはその理由が明記されている。「半導体メモリ業界では事業環境が短期間に大きく変化する特徴等があることから、年度計画値及び当該達成状況に係る記載は省略しています」

営業利益が前年同期の 28 倍になった会社が、半年先の数字を出さない。これが市況産業である。

皮肉ではなく、これは誠実な態度だと思う。出せない見通しを出すより、出さない方がましだ。ただし投資家の側から見れば、拠り所が半年分しかないという意味でもある。

② 特許訴訟への言及 → 366 億円を引当計上済み

7 月 16 日の陪審評決(約 2 億 2,900 万ドル)について、当四半期に訴訟損失引当金繰入額 366 億円が計上されている。

つまり営業利益 1 兆 2,700 億円は、この 366 億円を引いた後の数字である。Non-GAAP 営業利益 1 兆 3,262 億円との差額の大半がこれにあたる。

ここは評価できる点評決から 2 週間で引当を計上し、Non-GAAP との差額として金額を明示しています。営業利益 1 兆 2,700 億円に対して 366 億円は 2.9%。訴訟そのものは継続中ですが、少なくとも今回の決算で数字は反映されました。

③ NAND 市況と韓国勢の増産への認識 → 需要側のみ言及

短信では「データセンター及びエンタープライズ向けでは AI 用途サーバー向けの需要が増加しており、市場の拡大が継続しております」と需要の強さを述べている。

第 2 四半期についても「データセンター向けの需要が引き続き旺盛に推移することが予想される」としている。

一方で、供給側の増産計画についての言及は短信本文には見当たらない。市場が懸念していた論点に、短信レベルでは正面から答えていない。

④ 発表後の株価の反応 → まだ出ていない

前述のとおり、決算は大引けと同時に開示された。答えは 8 月 3 日に出る。

同時に出た 2 つの株主還元策

自己株式取得枠 8,000 億円

項目内容
取得しうる株式の総数3,000 万株(上限)/発行済株式総数の 5.5%
取得価額の総額8,000 億円(上限)
取得期間2026 年 8 月 3 日 〜 10 月 30 日
取得方法東京証券取引所における取引一任契約に基づく市場買付
株式分割後の株数上限9,000 万株(2026 年 10 月 1 日以降)
「自己株式の取得枠設定に関するお知らせ」より。

ここで見出しの数字をそのまま読まない方がいい。2 つの上限のうち、先に効くのは金額の方である。

8,000 億円 ÷ 3,000 万株 = 26,667 円。つまり「3,000 万株・5.5%」が成立するのは、平均取得単価が 26,667 円以下だった場合の話である。

7 月 31 日の株価 46,500 円で計算すると、8,000 億円で買えるのは約 1,720 万株、発行済株式数の約 3.1%にとどまる。

「5.5% の自社株買い」ではない。今の株価なら 3.1% 程度である。

それでも時価総額 25.5 兆円に対して 8,000 億円は小さくない。そして取得開始は 8 月 3 日——決算への市場の反応が出るのと同じ日である。

株式分割 1 株 → 3 株

  • 基準日:2026 年 9 月 30 日/効力発生日:2026 年 10 月 1 日
  • 分割前の発行済株式総数 548,015,088 株 → 分割後 1,644,045,264 株
  • 目的は「投資単位当たりの金額を引き下げ、投資家層の拡大を図る」こと

7 月 31 日の株価で換算すると、分割後は 1 株 15,500 円、1 単元(100 株)で 155 万円になる。

会社自身が開示文で触れているが、東京証券取引所が望ましいとする投資単位は 50 万円未満である。1 対 3 の分割をしても、まだ 3 倍の距離がある。会社も「引き続き検討してまいります」と書いている。

財務は別会社のように変わった

項目2026 年 3 月末2026 年 6 月末増減
資産合計3 兆 6,901 億円4 兆 7,305 億円+1 兆 404 億円
資本合計1 兆 3,991 億円2 兆 4,045 億円+1 兆 54 億円
親会社所有者帰属持分比率37.9%50.8%+12.9 ポイント
現金及び現金同等物4,707 億円7,910 億円+3,203 億円
決算短信より。現金は本文記載の増加額から逆算。
  • 営業活動によるキャッシュ・フローは 8,663 億円(前年同期は 611 億円)
  • 長期借入金を 4,332 億円繰上返済——財務 CF が △4,304 億円になった主因
  • 台湾 Nanya Technology の株式を 782 億円で取得
  • 自己資本比率が 1 四半期で 37.9% → 50.8% に改善

四半期利益 8,422 億円を稼いで、借金を 4,332 億円返した。財務体質という点では、この 3 か月で全く違う会社になった。

ここからが本題 — PER 6 倍をどう読むか

Fig. 同じ株価から出てくる 2 つの数字Fig. 同じ株価から出てくる 2 つの数字|PER は 6.0 倍と割安に見え、PBR は 10.6 倍と割高に見える。この組み合わせには意味がある。
PER は 6.0 倍と割安に見え、PBR は 10.6 倍と割高に見える。この組み合わせには意味がある。

7 月 31 日の株価 46,500 円で計算する。

指標計算結果
時価総額46,500 円 × 548,015,088 株約 25.5 兆円
上期 EPS1,539.91 円(1Q 実績)+ 2,317.46 円(2Q 見通し)3,857.37 円
PER(上期 ×2 で年換算)46,500 円 ÷ 7,714.74 円6.0 倍
PER(1Q 実績 ×4 で年換算)46,500 円 ÷ 6,159.64 円7.6 倍
BPS2 兆 4,043 億円 ÷ 548,015,088 株4,387 円
PBR46,500 円 ÷ 4,387 円10.6 倍
いずれも筆者が決算短信の数値から算出。会社は通期予想を出していないため、年換算はあくまで機械的な仮置きである。

PER 6 倍。日経平均の平均的な水準の半分以下である。数字だけ見れば、これは非常に安い。

だが同時に PBR は 10.6 倍だ。純資産の 10 倍以上の値段がついている。こちらは全く安くない。

この組み合わせが意味すること

低 PER と高 PBR が同時に成立するのは、利益が一時的に大きく膨らんでいるときである。

  1. 市況が良く、販売単価が跳ね上がる
  2. 利益が短期間で何倍にもなる
  3. 利益が分母の PER は小さく出る
  4. 一方、純資産はまだ利益を積み上げている途中なのでPBR は大きいまま
  5. 市況が反転すると利益は同じ速度で縮み、PER は一気に跳ね上がる

市況産業の PER は、良いときほど小さく、悪いときほど大きく出る。逆に読むと間違える。

これは私が「その「割安株」、誰の EPS で計算していますか」で書いた話そのものである。予想 EPS が実績から大きく跳ねているとき、PER を基準にした割安判断は機能しない。

思い出してほしいことこの決算の主因は会社自身が「平均販売単価の大幅な上昇」と説明しています。数量ではなく単価です。単価は市況が反転すれば下がります。工場が増えたわけでも、シェアが構造的に変わったわけでもありません。

では、私はどうするか

買わない。ただし理由は 7 月 28 日・30 日に書いたものから 1 つ減った。

  • 決算がこれから出る → 出た。中身は文句なしに良かった
  • 市況産業のピーク利益を前提にした PER は、割安の根拠にならない(残る
  • 通期見通しがないため、半年より先の利益水準を置く材料がない(残る

加えて、この 2 営業日で株価は 38,380 円から 46,500 円まで 21% 戻している。「暴落したから安い」という状態ですらなくなりつつある。

私が KAIRI の監視対象にこの銘柄を入れていないのは、適正株価が計算できないからである。今回の決算はその判断を変えるものではなかった。むしろ3 か月で売上が 76% 動く事業に、PER 15 倍という物差しを当てても意味がないことを再確認した。

8 月 3 日に見るべきこと

  1. 決算に対する最初の反応7 月 31 日の上昇は米半導体株高が理由で、決算は織り込まれていない。8 月 3 日が事実上の答え合わせになる。
  2. 好決算で上がるか、好決算でも売られるか後者なら「既に株価に入っていた」という市場の回答である。これは 7 月 28 日の記事で書いた論点そのままだ。
  3. 自己株式取得の開始8 月 3 日から 10 月 30 日まで市場買付が入る。需給の下支え要因になるが、金額上限 8,000 億円が先に効く点に注意。
  4. セクター全体が追随するかキオクシア単独の話か、半導体セクター全体の反転かで意味が変わる。同業他社の値動きも合わせて見る。

この決算から学べること

  • 営業利益 28 倍でも、会社は通期見通しを出さないことがある。市況産業とはそういうもの
  • 低 PER と高 PBR が並んだら、利益が一時的に膨らんでいる可能性を疑う
  • 「単価の上昇」による増益は、「数量の増加」による増益より持続性が低い
  • 自社株買いは「株数の上限」ではなく「金額の上限」で読む。先に効くのは金額の方
  • 株式分割は投資単位を下げるだけで、企業価値は変わらない
  • 株価が動いた日に必ず決算が理由とは限らない。7 月 31 日の 17% 高は決算前の材料によるもの

決算は素晴らしかった。それは事実である。そして素晴らしい決算と、いま買うべき株かどうかは、別の問いである。

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よくある質問

キオクシアの2027年3月期第1四半期の決算内容は?
売上収益1兆7,671億円(前年同期比5.15倍)、営業利益1兆2,700億円(同28.3倍)、親会社の所有者に帰属する四半期利益8,422億円(同46.1倍)でした。1株当たり四半期利益は1,539.91円です。生成AI用途のデータセンター向け需要による平均販売単価の大幅上昇が主因と会社は説明しています。
キオクシアは通期の業績予想を出していますか?
出していません。開示されているのは2027年3月期第2四半期(7-9月)と中間期累計までです。決算短信では、半導体メモリ業界は事業環境が短期間に大きく変化するため年度計画値の記載を省略していると説明されています。
キオクシアの自己株式取得の内容は?
取得しうる株式の総数は3,000万株(発行済株式総数の5.5%)、取得価額の総額は8,000億円が上限で、取得期間は2026年8月3日から10月30日までです。ただし8,000億円÷3,000万株=26,667円のため、株価が46,500円の水準では金額の上限が先に効き、実際に買える株数は約1,720万株(約3.1%)にとどまります。
キオクシアの株式分割はいつですか?
基準日が2026年9月30日、効力発生日が2026年10月1日で、普通株式1株につき3株の割合で分割されます。発行済株式総数は548,015,088株から1,644,045,264株になります。
PER6倍なら割安ではないのですか?
市況産業では利益が一時的に膨らむとPERが小さく出ます。キオクシアは同じ株価でPBRが10.6倍であり、低PERと高PBRが同時に成立している状態です。これは利益がピーク付近にある可能性を示す形で、低PERだけを根拠に割安と判断するのは危険です。

出典

  • キオクシアホールディングス「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年7月31日開示)
  • キオクシアホールディングス「株式分割及び株式分割に伴う定款の一部変更に関するお知らせ」(同日開示)
  • キオクシアホールディングス「自己株式の取得枠設定に関するお知らせ」(同日開示)
  • キオクシアホールディングス「当社子会社に対する訴訟の陪審評決に関するお知らせ」(2026年7月17日開示)
  • 株価はYahoo!ファイナンスおよび株探の2026年7月31日時点の公表値
  • 米半導体株の動向はFISCO株・企業報(2026年7月31日)

本記事は公開情報にもとづく個人の解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。制度・手数料・ポイント還元の条件は改定されることがあります。実際のご判断は必ず金融庁・各運用会社・各証券会社の最新の公式情報をご確認のうえ、ご自身の責任でお願いいたします。

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