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ロングは買いから入る。ショートは売りから入る。説明はここで終わってしまうことが多いのですが、本当の違いは損失の形にあります。
片方には上限があり、もう片方にはありません。その差がどこから来るのかを、数字で見ます。
ロングは買ってから売る、ショートは売ってから買い戻す。方向が逆なだけで、値上がりで得をするのがロング、値下がりで得をするのがショートです。
ただし損失の形は対称ではありません。ロングの損失は投資した金額で止まります(株価はゼロより下がらないため)。ショートの損失に上限はありません。株価に上限が無いからです。
さらにショートには信用取引の口座が要ります。制度信用なら6か月以内に返す決まりで、持っているあいだ貸株料が日割りで発生します。NISA口座ではできません。

まず定義 — 方向を表す言葉
ロングとショートは、どちらの方向に賭けているかを表す言葉です。難しい概念ではありません。
| ロング | ショート | |
|---|---|---|
| 日本語 | 買い建て・買いポジション | 売り建て・空売り |
| 順番 | 買ってから売る | 売ってから買い戻す |
| 得をするのは | 株価が上がったとき | 株価が下がったとき |
| 必要な口座 | 現物取引の口座で足りる | 信用取引の口座が要る |
| NISA | 使える | 使えない |
「ロングポジションを持っている」は「買った状態で持っている」という意味です。株を買ったことがある人は、意識せずに全員ロングをしています。
本題 — 損失に上限があるのは片方だけ
ロングとショートは、図の上では原点で交差する2本の直線です。一見すると鏡写しに見えます。ところが片側だけ端がある。
株価はゼロより下がりません。だから買った側の損失は、払った金額で必ず止まります。一方で株価に上限は無いので、売った側の損失は止まりません。
ロングの最悪は「全部なくなる」。ショートの最悪は決まっていない。
100万円分を買った場合(ロング)
| 株価の変化 | 損益 | ひとこと |
|---|---|---|
| −100%(ゼロになる) | −1,000,000円 | これが最大の損失。これ以上は減らない |
| −30% | −300,000円 | |
| −10% | −100,000円 | |
| +30% | +300,000円 | |
| +100% | +1,000,000円 |
100万円分を売り建てた場合(ショート)
委託保証金率を30%とすると、30万円の保証金で100万円分を建てられます(手元資金の約3.3倍)。この30万円を基準に見てください。
| 株価の変化 | 買い戻しにかかる額 | 損益 | 保証金30万円に対して |
|---|---|---|---|
| −30% | 700,000円 | +300,000円 | +100% |
| −10% | 900,000円 | +100,000円 | +33% |
| +10% | 1,100,000円 | −100,000円 | −33% |
| +30% | 1,300,000円 | −300,000円 | −100%(保証金がちょうど消える) |
| +100%(株価2倍) | 2,000,000円 | −1,000,000円 | −333% |
| +200%(株価3倍) | 3,000,000円 | −2,000,000円 | −667% |
注目してほしいのは+30%の行です。株価が3割上がっただけで、預けた保証金がちょうど無くなります。株価が3割上がるのは、決算をまたげば普通に起こります。
そしてマイナスは保証金の額で止まりません。株価が2倍になれば、預けた30万円を失ったうえにさらに70万円を払うことになります。これがロングとの決定的な違いです。
ショートには時間の制約もつく
日本証券業協会は信用取引を「証券会社に担保として委託保証金を差し入れ、買付代金や売付証券を借りて売買を行い、所定の期限内に返済する取引のこと」と定義しています。借りものなので、期限があります。
| 制度信用 | 一般信用(無期限) | |
|---|---|---|
| 返済期限 | 6か月以内 | 原則、無期限 |
| 貸株料(年率) | 1.10% | 3.90% |
| 売り方金利 | 0.00% | 0.00% |
| 品貸料(逆日歩) | 発生することがある | 発生しない |
| 対象銘柄 | 取引所が選んだ貸借銘柄のみ | 証券会社が定める銘柄 |
持っているだけで減っていく
貸株料は日割りです。100万円分を売り建てたまま置いておくと、次の金額がかかります。
| 保有日数 | 制度信用(1.10%) | 一般信用・無期限(3.90%) |
|---|---|---|
| 30日 | 904円 | 3,205円 |
| 90日 | 2,712円 | 9,616円 |
| 180日(制度信用の期限) | 5,425円 | 19,233円 |
| 365日 | 制度信用では持てない | 39,000円 |
金額そのものは大きくありません。効いてくるのは「待つ」という選択肢が高くつくことのほうです。ロングなら、判断を間違えても持ち続けて回復を待てます。ショートでは待つあいだにコストが積み上がり、制度信用なら6か月で強制的に決着がつきます。
逆日歩は、あとから決まる
制度信用で空売りが増えて株が足りなくなると、品貸料(逆日歩)が発生します。これは証券金融会社が入札で決めるもので、建てた時点では金額が分かりません。事後的に決まって請求されます。
NISA口座ではショートはできない
NISAは上場株式や投資信託を買い付けて保有するための制度です。成長投資枠でも、除外されているのは「整理・監理銘柄」「信託期間20年未満、毎月分配型の投資信託およびデリバティブ取引を用いた一定の投資信託等」で、いずれも買うものの話です。売りから入る取引は入り口から対象外です。
つまりNISAを中心に運用しているなら、そもそもショートを使う場面がありません。課税口座で信用取引の口座を別に開く必要があります。
ついでに整理 — よく一緒に出てくる言葉
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| ポジション | 持っている状態のこと。「ポジションを持つ」=建てる、「ポジションを閉じる」=手じまう |
| 建玉(たてぎょく) | 信用取引で持っている未決済の分。「買い建玉」「売り建玉」と使い分ける |
| ドテン | ロングを閉じてそのままショートに入る(またはその逆)こと |
| 踏み上げ | ショートしている人が買い戻しを迫られ、その買いでさらに株価が上がること。上のショートの表で見た損失は、この形で膨らむ |
| ロング・ショート戦略 | 買いと売りを組み合わせて、相場全体の上下の影響を打ち消そうとする運用手法。個人が単発で空売りすることとは別の話 |
私はショートを使っていません
ここまでは制度の話です。使うかどうかは別の判断になります。
私は現物のロングだけで運用しています。理由は損失が怖いからというより、考えることが二倍になるからです。ロングなら「この価格は安いか」だけを考えればいい。ショートでは、それに加えて「いつまでに下がるか」を当てなければならない。貸株料と返済期限が、時間を判断材料に引きずり込んできます。
相場が下がる局面で何もできないのは事実で、その分だけ手法を狭めています。ただ、判断の軸が1本で済むことのほうを取りました。詳しくは私が空売りをしない理由に書いています。
- ロングとショートの違いは何ですか
ロングは買ってから売る、ショートは売ってから買い戻す取引です。ロングは株価が上がると得をし、ショートは下がると得をします。ただし損失の形が違い、ロングの損失は投資額で止まりますが、ショートの損失に上限はありません。株価はゼロより下がらない一方、上には限りがないためです。
- ショート(空売り)は初心者でもできますか
制度としては信用取引の口座を開けばできます。ただし委託保証金は最低30万円で、委託保証金率30%なら手元資金の約3.3倍まで建てられます。株価が30%上がっただけで保証金が消える計算になり、それ以上動けば追加で支払いが発生します。仕組みを理解しないまま始めると、損失が想定を超えます。
- ロングポジションとはどういう意味ですか
買った状態で保有していることです。現物で株を買って持っているだけでもロングポジションになります。信用取引の買い建ても同じくロングです。
- ショートを持ち続けるといくらかかりますか
100万円分を売り建てた場合、制度信用(貸株料1.10%)で30日904円、180日で5,425円です。一般信用の無期限(3.90%)なら30日3,205円、365日で39,000円になります。制度信用にはこれとは別に、あとから金額が決まる品貸料(逆日歩)が乗ることがあります。
- NISA口座で空売りはできますか
できません。NISAは上場株式や投資信託を買い付けて保有するための制度で、信用取引は対象外です。空売りをするなら課税口座で信用取引の口座を開く必要があります。
- 制度信用と一般信用はどちらを選ぶべきですか
目的によります。制度信用は貸株料が安い(1.10%)代わりに6か月の期限があり、逆日歩の可能性があります。一般信用の無期限は貸株料が高い(3.90%)代わりに期限が無く、逆日歩もありません。短期なら制度信用、期限を気にしたくないなら一般信用、というのが基本の分け方です。料率は証券会社ごとに違うので、口座を持っている会社の公式ページで確認してください。
- 踏み上げとは何ですか
ショートしている人たちが買い戻しを迫られ、その買い注文自体がさらに株価を押し上げる状態です。損失が膨らむほど買い戻さざるをえなくなり、それがまた株価を上げるという循環になります。ショートの損失に上限が無いという性質が、実際に現れるのがこの場面です。

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