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ドル円が1日で約4円下げました。円が売られたのではなく、買い戻されています。
引き金は米財務省が公表した1本のリードアウトと、その2日後の日銀審議委員の講演でした。時系列で追います。
2026年9月3日、ドル円は160円20銭から一時155円35銭まで、約4円90銭下げました。「ドル円の下落」=円高です。8月3日以来、約1か月ぶりの155円台になりました。
直接の引き金は米財務省が9月1日に公表した会談記録です。ベッセント財務長官が植田総裁に対し、「円の大幅な過小評価に対処するための、日本の断固とした市場および金融政策上の措置を強く支持する」と伝えていたことが明らかになりました。
追い打ちが9月2日の高田審議委員の講演です。「市場で考えられている一定の利上げの間隔や幅に囚われることなく機動的に対応する」と述べ、積み上がっていた円売り・日本国債売りのポジションが一斉に巻き戻されました。
まず用語 — 「円の下落」と「ドル円の下落」は逆
混同しやすいので先に置いておきます。
| 表現 | 意味 | 9月3日は |
|---|---|---|
| ドル円が下落 | 1ドルで買える円が減る=円高 | これが起きた(160.20 → 155.35) |
| 円が下落 | 円の価値が下がる=円安=ドル円は上昇 | 起きていない |
9月3日に起きたのは円高です。数字が小さくなる方向に動いたので「下落」と表現されますが、下落したのはドル円という為替レートであって、円ではありません。
何が起きたか — 数字
| 9/1 | 9/2 | 9/3 | 9/4(朝) | |
|---|---|---|---|---|
| ドル円(終値) | 159.75 | 160.20 | 158.92 安値 155.35 | 155.86 |
| ユーロ円(終値) | 185.58 | 185.68 | 184.11 安値 180.54 | 181.27 |
| 日経平均(終値) | 66,215 | 64,326 −1,889円 / −2.85% | (休場) | 64,660 |
| 10年国債利回り | 2.987% | 3.006% 3%台に到達 | 2.966% | — |
| 2年国債利回り | 1.802% | 1.854% | 1.850% | — |
| 30年国債利回り | 4.131% | 4.122% | 4.052% | — |
円高はユーロに対しても同時に起きています。ユーロ円は185円台から一時180円54銭まで、5円以上。ドルが売られたのではなく、円が買われたということです。
動き方は「じわじわ」
介入のような瞬間的な棒下げではありませんでした。時間足で追うとこうなります。
| 時刻(日本時間) | ドル円 |
|---|---|
| 9/3 09:00 | 158.71 |
| 9/3 12:00 | 157.77 |
| 9/3 15:00 | 157.12 |
| 9/3 18:00 | 156.41 |
| 9/3 21:00 | 155.56 |
| 9/4 01:00 | 155.35(安値) |
| 9/4 11:00 | 155.91 |
引き金① 米財務省のリードアウト(8月30日・公表は9月1日)
G20財務相・中央銀行総裁会議が米ノースカロライナ州アッシュビルで開かれ、その場でベッセント財務長官と植田総裁が会談しました。米財務省が公表した記録の原文はこうです。
Secretary Bessent also expressed strong support for Japan's decisive market and monetary steps to address the substantial undervaluation of the yen and noted the role of yen weakness in contributing to domestic inflationary pressures in Japan.
(ベッセント長官は、円の大幅な過小評価に対処するための、日本の断固とした市場および金融政策上の措置を強く支持すると述べ、円安が日本国内のインフレ圧力に寄与している点にも言及した)
この文が異例なのは3点あります。
| 文言 | 意味 |
|---|---|
| substantial undervaluation of the yen (円の大幅な過小評価) | 米財務省が円は安すぎると公式文書で明言した。通常、他国通貨の水準に踏み込む表現は避けられる |
| market steps(市場での措置) | 為替介入を指すと読める。米国がこれを「強く支持する」と言っている |
| monetary steps(金融政策上の措置) | 日銀の利上げ。中央銀行の独立性に配慮して普通は触れない領域 |
| avoid excess exchange rate volatility | 同じ文書で「過度な為替変動の回避」にも言及。円安是正を促しつつ、急変も望まないという両にらみ |
円安を止めたい日本を、米国が止めない。むしろ「やれ」と公式文書に書いた。ここが今回の新しさだった。
引き金② 高田審議委員の講演(9月2日・札幌)
翌々日、日銀の高田創審議委員が札幌市金融経済懇談会で挨拶しました。日銀公式サイトに全文があります。市場が反応したのは次の部分です。
今後も利上げにあたっては、事前に想定した中立金利を目指すのではなく、また、市場で考えられている一定の利上げの間隔や幅に囚われることなく、海外環境に加え国内での金融環境に関する緩和度合いを確認したうえで機動的に対応していく必要があると認識しています。
「間隔や幅に囚われない」は、「年2回・1回0.25%」という市場の前提を外してよいと読めます。ペースを速める余地も、1回の利上げ幅を大きくする余地も否定していません。
同じ講演で、高田委員は次のようにも述べています。
| 発言 | 含意 |
|---|---|
| 今年6月に政策金利の1.0%程度への引き上げを決定。私は7月の会合で1.25%への利上げを提案している | 現在の政策金利は1.0%。高田委員はすでに一段の利上げを主張する側 |
| 従来の基調的物価上昇を促してきたスタンスから一転して、物価の上振れを防ぐ日銀の意思を市場に示し、為替市場を通じた影響にも配慮する必要 | 日銀が為替に言及した。「円安を止める意思」を示すという文脈 |
| 海外が利上げ局面に入った中、中立金利は市場が見込んでいた水準から上振れる可能性 | 到達点そのものが上にずれるかもしれない、という示唆 |
| 日本も海外との連動を取り戻す、「普通の国」に戻った | 日本だけ低金利、という前提が終わったという認識 |
巻き戻されたのは何か
日経新聞は今回の動きを「海外投資家を中心とした円売り・日本国債売りの巻き戻し」と表現しています。これが今回の性格をよく表しています。
低金利の円を借りて他通貨で運用する、いわゆる円キャリー。それと並行して、日本の金利上昇を見込んだ日本国債の売り持ち。どちらも「円安・金利上昇が続く」ことに賭けた形です。
米財務省が円安是正を「強く支持」し、日銀の審議委員が「幅に囚われない」と言った。円安が続く前提が崩れました。
円を借りて売っていたポジションを閉じるには、円を買い戻すしかありません。同じことを大勢が同時にやると、一方向に走ります。
9月2日に10年債利回りは3.006%と3%台に乗せましたが、3日には2.966%へ低下。30年も4.122%→4.052%。売り持ちの買い戻しが入った動きです。
つまり新しくお金が入ってきたというより、積んであったものが外れた局面でした。この種の動きは速くて大きい一方、外れ切ると止まります。9月4日午前に155円台後半で落ち着いているのは、それと整合的です。
背景にあったもの — 9月2日の株安と金利3%
見落とされがちですが、円が動く前日に日本市場は荒れています。
| 9月2日に起きたこと | 数字 |
|---|---|
| 日経平均が急落 | 66,215円 → 64,326円(−1,889円・−2.85%) |
| 10年国債利回りが3%台へ | 2.987% → 3.006% |
| 30年国債利回り | 4.122%(前日 4.131%) |
| 2年国債利回り | 1.802% → 1.854% |
政策金利が1.0%のところ、2年債が1.85%。市場はすでに追加利上げをかなり織り込んでいます。10年が3%に乗ったことで「金利のある世界」への移行が意識され、株は高PERの銘柄から売られました。
日経平均が3か月高値から11%下げている一方でTOPIXは3%しか下げていない、という構図については前回の相場ノートに書きました。金利上昇が効く場所と効かない場所が、はっきり分かれています。
これから何を見るか
| 日付 | イベント | 見るところ |
|---|---|---|
| 9月11日(金) | メジャーSQ | 需給で値が飛びやすい |
| 9月15〜16日 | FOMC | 経済見通しとドットチャートの公表回。ドル側の材料 |
| 9月17〜18日 | 日銀 金融政策決定会合 | 今回の本命。利上げの有無と、あれば幅。高田委員の言う「幅に囚われない」が実行されるか |
| 9月19〜23日 | 5連休 | 日銀の結果に反応できる営業日は18日の1日だけ。そこから5日間ポジションを動かせない |
| 9月28日(月) | 9月期末の権利付き最終日 | 配当・優待の権利取り |
| 9月30日(水) | 上期末 | 機関投資家の期末要因 |
気をつけたいこと
| 論点 | 中身 |
|---|---|
| これは介入ではない(たぶん) | 16時間かけて連続的に下げており、瞬間的な棒下げではありません。ただし当局が介入したかどうかは、財務省が公表する月次の為替介入実績(毎月末)を待たないと確定しません |
| 利上げは決まっていない | 高田委員の発言は本人が「私見」と明記しています。審議委員1人の意見であって、政策委員会の決定ではありません |
| 円高が続く保証はない | 巻き戻しは、外れ切れば止まります。日銀が9月に動かなければ、失望から戻る展開も普通にありえます |
| 米国の姿勢は変わりうる | 米財務省が円安是正を支持したのは、自国のインフレや通商上の都合と切り離せません。前提が変われば文言も変わります |
| 輸出企業の想定レートに注意 | 155円と160円では、輸出企業の想定為替レートに対する上下がまったく違います。決算期の想定レートを確認しておく価値があります |
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よくある質問
- 2026年9月3日に円はいくらまで動きましたか?
ドル円は9月2日の終値160円20銭から、9月3日に一時155円35銭まで下げました。約4円90銭の円高で、8月3日以来およそ1か月ぶりの155円台です。ユーロ円も185円台から180円54銭まで5円以上の円高になりました。
- なぜ円が急騰したのですか?
直接の引き金は、米財務省が9月1日に公表した8月30日のベッセント財務長官と植田日銀総裁の会談記録です。「円の大幅な過小評価に対処するための日本の断固とした市場および金融政策上の措置を強く支持する」と明記されていました。加えて9月2日の高田審議委員の講演で「一定の利上げの間隔や幅に囚われることなく機動的に対応する」と述べられ、円売りと日本国債売りのポジションが巻き戻されました。
- これは為替介入ですか?
断定できませんが、値動きの形は介入らしくありません。介入なら数分で2〜3円飛ぶのに対し、今回は東京時間の朝からNY時間まで約16時間かけて連続的に下げています。確定するには財務省が毎月末に公表する為替介入実績を待つ必要があります。
- 日銀は9月に利上げしますか?
決まっていません。高田審議委員の発言は本人が「私見」と明記しており、審議委員1人の意見であって政策委員会の決定ではありません。次回の金融政策決定会合は9月17日から18日で、総裁会見は18日です。なお現在の政策金利は6月に引き上げられた1.0%程度で、高田委員は7月の会合で1.25%への利上げを提案していました。
- 「ドル円の下落」と「円の下落」は同じ意味ですか?
逆の意味です。ドル円が下落するのは1ドルで買える円が減ること、つまり円高です。円が下落するのは円の価値が下がること、つまり円安でドル円は上昇します。9月3日に起きたのは円高です。
- 日本の長期金利はどうなっていますか?
10年国債利回りは9月2日に3.006%と3%台に到達し、9月3日は2.966%に低下しました。2年債は1.850%で、政策金利1.0%に対して大きく上回っており、市場が追加利上げをかなり織り込んでいることを示しています。30年債は4.052%です。
- この円高は続きますか?
分かりません。今回はポジションの巻き戻しが主因で、この種の動きは積み上がっていたものが外れ切ると止まります。9月17〜18日の日銀会合で利上げがなければ失望から円安に戻る展開もありえますし、逆に「幅に囚われない」利上げが実行されればさらに動く可能性もあります。
- U.S. Department of the Treasury「READOUT: Secretary of the Treasury Scott Bessent's Meeting with Bank of Japan Governor Kazuo Ueda」(2026年8月30日)
- 日本銀行 高田審議委員【挨拶】「わが国の経済・物価情勢と金融政策」(2026年9月2日・札幌市金融経済懇談会)
- 財務省「国債金利情報」
- 日本銀行「金融政策決定会合の開催日程」
- 日本経済新聞「円、一時155円台 ベッセント発言で円・国債売りに巻き戻し」(2026年9月3日)
- 日本経済新聞「ベッセント氏、円安阻止へ「断固たる金融政策を支持」 日銀総裁に伝達」(2026年9月2日)
本記事は2026年9月4日午前時点の公開情報にもとづく個人の記録であり、特定の金融商品の売買や為替取引を推奨するものではありません。為替レートと金利は掲載時点のもので、その後変動します。日銀の政策判断について書いた部分は審議委員個人の見解であり、日本銀行の決定を示すものではありません。投資判断は必ずご自身で一次情報を確認のうえ、自己責任でお願いいたします。

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