毎月届く書類のうち、最も読まれていないのがおそらく給与明細である。
額面と手取りの差は「引かれている」のではなく、四つの制度が同時に作動した結果である。構造を知れば、少なくとも驚かずに済む。
年収の話をするとき、多くの人は額面で語る。しかし実際に使えるのは手取りである。この二つの差は、年収が上がるほど拡大していく。
差額の正体は四つに分解できる。健康保険料、厚生年金保険料、所得税、住民税である。
額面から手取りに至る流れ
社会保険料 — 労使折半という事実
健康保険料と厚生年金保険料は、会社と本人が半分ずつ負担する。明細に記載されているのは本人負担分のみであり、実際には同額を会社が支払っている。
つまり会社から見た人件費は、額面よりさらに大きい。転職や独立を検討する際、この見えない負担を計算に入れないと判断を誤る。国民健康保険と国民年金は全額自己負担となるためだ。
所得税 — 今年の所得に対して課される
所得税は当年の所得に対して課され、毎月の給与から概算で天引きされる。年末調整はこの概算と確定額の差を精算する手続きである。
住民税 — 前年の所得に対して課される
ここが最も見落とされやすい。住民税は前年の所得を基準に計算され、翌年 6 月から翌々年 5 月にかけて徴収される。
年収が上がっても手取りは比例して増えない
日本の所得税は累進課税であり、所得が増えるほど高い税率が適用される。加えて社会保険料も報酬に応じて増える。
昇給の知らせに喜べる期間は、明細を見るまでの数週間しかない。
もっとも、社会保険料には上限が設けられており、一定の報酬を超えると保険料は増えなくなる。この構造まで含めると、「年収いくらで手取りがどう変わるか」は単純な比例ではない。
家計設計への応用
- 額面ではなく手取りで予算を組む生活費も積立額も、手取りを基準に設計する。額面で計算すると常に足りなくなる。
- 賞与を計算に入れない賞与は業績により変動し、社会保険料も課される。固定費や積立の前提に組み込むと、支給額が減った年に破綻する。
- 退職・転職の年は住民税を別枠で確保する前年基準の住民税は、収入が途切れても請求される。転職の空白期間がある場合はとくに、この分を現金で確保しておく。
よくある質問
- 額面と手取りの差は何ですか?
- 健康保険料・厚生年金保険料・所得税・住民税の四項目です。このほか雇用保険料や、会社によっては組合費・財形貯蓄などが差し引かれる場合があります。
- 住民税はなぜ前年の所得で計算されるのですか?
- 住民税は前年 1 月から 12 月の所得を基準に税額が決まり、翌年 6 月から徴収が始まる仕組みだからです。このため収入が減った翌年も、前年基準の税額が請求されます。
- 社会保険料は会社も払っているのですか?
- 健康保険料と厚生年金保険料は労使折半です。給与明細に記載されているのは本人負担分のみで、同額を会社が負担しています。
- 新社会人 2 年目に手取りが減るのはなぜですか?
- 住民税の徴収が始まるためです。1 年目は前年の所得がないため住民税がかからず、2 年目の 6 月から課税が始まります。
本記事は公開情報にもとづく個人の解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。制度・手数料・ポイント還元の条件は改定されることがあります。実際のご判断は必ず金融庁・各運用会社・各証券会社の最新の公式情報をご確認のうえ、ご自身の責任でお願いいたします。
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